• コラム
  • 2017.11.07

耐久スポーツにハマる人について考えてみた(その2)
マラソンからその先へ


気づき

11月になり少しずつ冬の気配が感じられるようになってきました。急に寒くなったためか、風邪をひいて体調を崩す人が増えているように見受けられます。日常生活でマスクをしている人が多くなってきました。手洗い、うがい、栄養補給、睡眠時間の確保といった予防対策をして、気をつけていきたい時節です。
しかし、基礎的な予防対策として「体力」をつけることが重要だと筆者は感じております。何も激しい運動をすることを意味している訳ではありません。ご自身の年齢や体調、生活リズムに合わせた定期的なワークアウトを愉しみながら継続していくことを意味しています。

さて、前回のコラムでは耐久スポーツを始めた人が増えた経緯、ハマる経緯を代表的な種目であるマラソンにフォーカスして考えてみました。今回はその続編です。

10月以降、各地ではマラソン大会、駅伝大会が多く開催されています。毎週のように参加者が1万人規模のフルマラソンの大会も開催されています。例えば、10月から11月の2ヶ月間だけを調べてみても、10月には新潟市、富山市、金沢市、横浜市(今年は台風の為、中止)、宮古島市、11月には下関市、福岡市、前橋市、神戸市、揖斐川町、さいたま市、大阪市、福知山市、大田原市、日光市、つくば市などで大規模なフルマラソン大会が開催となっています。ハーフマラソン大会や10kmマラソン大会、駅伝大会も含めると、相当数の大会が開催される状況です。こうした大会の開催数からも耐久スポーツのひとつであるマラソンが非常に普及したことが分かります。

これだけの開催数とそれに伴う参加者数は、開催地域への経済効果も生み出しています。地方創生、地域活性化というテーマで考えてみても、耐久スポーツの人気は着実にその期待に応えるコンテンツになってきたと筆者は感じています。大会エントリー費だけでなく、前日や当日の宿泊費や食費、開催地までの交通費、地元商材の購入費などは、一過性とは言え、地元にとっては大きな話題であり、大会開催はその地域の自治体、政治家、ライオンズクラブやJCといった経済界も注目している出来事だと想像できます。
また東京マラソンや大阪マラソンといった大都市開催のマラソン大会では、インバウンド効果も生み出しています。多くの海外からの参加者が出場しており、参加資格を抽選方式で決める東京マラソンなどでは、海外からの参加者の方が経済効果が大きいため、抽選に当りやすいといった都市伝説のような噂まで拡がっています。

 【東京マラソン2016年 経済波及効果 301億円】

今までスポーツ×地域という観点では、Jリーグが成功事例として取り上げられることが多い状況でした。現在、この立役者であるJリーグ初代チェアマンの川渕三郎氏は、同様のプロスポーツ構想で次の舞台にBリーグ(プロバスケットボールリーグ)を選び率いています。Jリーグ、Bリーグともに、スポーツ×地域に主体となるクラブ運営の企業が加わりひとつになることを目指す理念の為、そこでの生活者の関与はサポーター、ファンとしての姿が一般的だと思います。
これに対して、耐久スポーツの大会に参加することは、これまで見てきたように、スポーツ×地域に主体となる参加者が加わりひとつになる意味合いが強く、より生活者が参加しやすい地方創生、地域活性化のスタイルではないかと思います。

今回、こうして年々増加し、経済効果までを生み出している耐久スポーツにハマった人が、さらにハマるとどのような方向に進む傾向があるのか、ちょっと考えてみました。

様々なケース、いろいろな要因が考えられますが、筆者の周辺の状況からは、大きく分けると3つのタイプに進む傾向があるように感じています。1つ目が、耐久スポーツの代表であるマラソンにハマり、タイムの向上やより制限時間が厳しいハイレベル大会への出場を目指すタイプ。2つ目が、より長い距離、所謂ウルトラマラソンやトレイルマラソンにハマり、山野を駆け巡ることを目指すタイプ。3つ目が、筆者もその愛好家のひとりですがトライアスロンにハマり、プールや海でのスイムやロードバイクといった違った運動にもチャレンジするタイプ。
いずれも、入り口の耐久スポーツはマラソン(ジョギング)であることが多いのですが、ある程度の練習量がこなせるようになり、また多くのマラソン大会に出場するようになると、今以上に耐久スポーツにおける自分のポジションを見出したい、自分のスタイルを確保し愉しみたい、と思うようになる人が多いと感じています。その想いの強さがこの3つのタイプへと進む原動力に繋がっているのではないかと感じています。
3つのタイプに共通しているのは、限られた生活時間の中で、フルタイムで仕事をこなし練習時間を捻出するタイムマネジメントと、ある程度の高負荷な練習を継続して実践するメンタルやモチベーションマネジメントを日頃から意識している人が多いということです。筆者がハマっているトライアスロンでは、自己環境と自然環境だけではなく機材環境(主にロードバイク)のトラブルにも冷静に対処することが求められ、なかなか手ごわいところがあります。その難しさ故に、ハマってしまうのかもしれません。

日本でのトライアスロンは、1981年に鳥取県米子市皆生温泉で行われた大会から始まり、その後、マガジンハウスの「ターザン」誌でチームターザンが結成され一般の方が挑戦する企画が組まれ、少しずつ認知され始め、2000年のシドニー五輪では正式種目となり、ゆるやかに競技人口が増えてきました。最近では、「行列ができる法律相談所」の番組内で著名人が挑戦する企画が放送され、また30代-40代の経営者層が好んで取り組むスポーツのひとつとして、幻冬舎の「ゲーテ」紙などが取り上げており、耐久スポーツにハマる人の増加に比例し、この10年間でトライアスロンの競技人口も増加傾向となっています。しかしまだまだマイナースポーツの域は出ておらず、40万人程が取り組んでいる状況です。
今後、耐久スポーツにハマる人が、さらにハマる先として3つ目のタイプであるトライアスロンを選択する際の参考になればと思い、弊社が保有する不満データベースから不満の内容を「トライアスロン」に限定して抽出を行ってみました。

マイナースポーツのためサンプル数が少なく参考値となりますが、1番多い不満は、TV放送に関する不満でした。国際大会や国内主要大会のTV放送は少ないのですが、それ故、放送する際はしっかりお願いしたいといった内容でした。2番目に多い不満は、想定はしておりましたが、道具・備品が高額であることに関する内容でした。競技人口の増加に伴い、少しずつロードバイクはエントリーモデルが販売されはじめ、中古市場や海外からの輸入サイトも出来つつあるため、今後の参入企業の努力に期待したいところです。
注目したいのは、前回のコラムでも取り上げましたが、大会による交通規制やゴミ問題といった内容です。耐久スポーツは、他のスポーツよりも開催時間が長く、開催範囲が広いため、運営には地域の生活者の協力とサポートが必要になります。この点は、先に述べた地方創生、地域活性化の観点からも、耐久スポーツにハマる人が、スポーツ×地域の枠組みで考えていくべき課題ではないかと感じています。

 TV放送に関する不満

  • 「雨天のトライアスロン横浜大会をライブ中継しているが、カメラに水滴がついて視聴しづらい。雨を想定した対策をしておくべきだったのではないか。(男性 40代 関東)」
  • 「地上波でトライアスロンの中継をしていたのに途中で中断してしまい、BSでもやっているゴルフの中継に変わってしまったのが不満。両方で同じ中継をする必要はないと思う。(女性 20代 関西)」

 道具・備品に関する不満

  • 「今マラソンと水泳をやっていて、トライアスロンのために自転車を始めたい。しかし、他の二つに比べて、金銭面、道具の置場所、トレーニング場所などなど、敷居が高い。(男性 30代 関東)」
  • 「マウンテンバイクの値段もう少し安くならないのかな。トライアスロンをやりたいけれど、学生だしなかなか買えなくて困る(女性 30代 関東)」

 交通規制に関する不満

  • 「家の前が勝手にコースになり、勝手に車で出られない。(女性 30代 九州)」
  • 「自転車で海の見える道を走りたかったのに、トライアスロン中で行けなかった。(女性 40代 九州)」

 ゴミに関する不満

  • 「バイク競技中、栄養ドリンクやゼリーのゴミをボランティアの所に捨てて行くのはマナー違反だと思う。自分のゴミは自分で処理して下さい。(女性 40代 中部)」
  • 「市民会館のトイレに選手が使ったであろうもののゴミが洗面台近くに置いてあったので選手は自分が出したゴミはちゃんとゴミ箱等に捨てて欲しかった。(男性 20代 中部)」

ここまで耐久スポーツを始めた人が増えた経緯、ハマる経緯、そしてさらにハマると、どういった方向性に進むのかを考えてきました。次からはもう少し原点に戻り、日本のスポーツレガシーについて考えてみたいと思います。
日本はこれから2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年の関西ワールドマスターズゲームズといった「ゴールデンスポーツイヤーズ」を迎えます。世界から注目されるこの機会を活かして、スポーツから日本再生、地方創生をどう切り開いていくのか、このテーマを考えるのには絶好の時期だと思っているからです。

今回はここまで。コラムの結びに筆者の好きな言葉をお伝えして終わりにします。
~「世の中で何がおもしろいと言って、自分の力が日ましに増すのを知るほどおもしろいものはない。
それは人間のもっとも本質的なよろこびの一つである。」 三島由紀夫「実感的スポーツ論」より~

気づき